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「そんな! ここにも無いの!?」
彼女の口振りから察するに、どうも彼女は先ほどから何か特定のものを探し出そうとしているみたいだ。一体それが何なのか知らないが、なぜベッドの下や辞書のカバーのような偏屈な場所を執拗に探ろうとしているのか。人に見られたくないようなものなら、普通はもっとセキュリティの硬いところに隠すだろう。金庫とか、隠し戸とか。
「残り30秒です」
催促してやると、彼女は書斎を諦め、最後のフリールームに望みを託した。
しかし寝室の向かいの扉を開けた彼女は、フリールームという名の空箱を見てがっくりと肩を落とした。
この部屋にあるのは隅っこの壁に寄せられたデスクとチェア、そしてその上に据え置かれたデスクトップ型のPCだけ。その他家具やインテリアの類は一切ない。
彼女は一縷の望みに賭けるようにパスコンのマウスをクリックしてスリープ状態を解除するが、モニターには真っ黒なロック画面だけが表示され、そこでタイムオーバーとなった。
「なによあんたの部屋! なーんにも無さすぎでしょ! エロ本どころかゲームもマンガも見当たらないってどうなの!?」
「そんなことないでしょう。書斎にはたくさん本がありますし、パソコンだって使えます。有意義な時間を過ごすのに必要なものは概ね揃っていると思いますよ」
僕はもっともなことを言ったつもりだったが、彼女の目が点になっているのを見て、どうやら彼女の考える〝有意義〟は僕とは違うのだなと思い直す。まあそんなことはどうでもよいか。
「とにかく、気が済んだのであれば早急にお引き取りを。僕も早く部屋着に着替えたいので」
魂が抜けたような彼女を玄関までエスコートするべく、先に部屋を出る。しかし直後、ドアを開けた僕の肩を、背後から彼女ががっしりと掴んできた。
「こうなったら最後の手段よ……」
なぜだか声がわなわなと震えている。僕の肩を掴む手もぷるぷると震えている。
「なんですか? トイレでしたら階段の隣に――」
「アホ、違うわ! 着替えよ、着替え! アンタの着替えてるところを撮らせなさい!」
やれやれ、何を言い出すかと思えば……
僕は肩に乗っかる手を払い、彼女のほうを向いて一つ溜め息をついて言った。
「そんなことでいいんですか?」
「うるさい! 元はといえばアンタが……って、えええええっ!?」
直後、彼女は自ら盛大にのけぞった。
「いいの!? 着替えを撮るんだよ!?」
自分から申し出たことだと言うのに、なにをそんなに驚いているのだろう。
着替えを撮らせるくらい、別にどうってことはない。
着替え中にただカメラを向けられるというだけならば、金銭的にも時間的にも、こちらが実害を被ることはないのだから。
「構いませんよ。邪魔をしないのであれば」
僕としても恨みを買ったまま彼女に帰られるのは本意ではない。できれば互いに遺恨を残すことなく別れ、今後一切関わらないでもらうほうが合理的解決であるのは明らかだ。
「いいのね!? 本当に撮るけどいいのね!?」
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