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お風呂
「へっくしょん」
「大丈夫?ひかり」
ひかりだって、私の事、ひかりって呼んでるよ。良ったら。
あはは。あ、いかん、私、頭が馬鹿だ。
夕立が来ると私の頭が馬鹿になる
「ひかり、手、つないでいい?」
「わ」
「何?」
「いきなし」
「嫌?」
「ぜんっぜん、もう、ぜんっぜん、嫌じゃない」
良の手が伸びて、私がそこに手を絡ませて。
夕立が来ると恋人たちは手をつなぐ
「いろいろ今まで至らなくてすみませんでした。僕ね、女の人と付き合うの初めてなんでわからないことが多くて」
「私だって、こうやって男の人と手をつなぐのは、うんと、いつ以来だ?」
私だって華麗な恋愛遍歴があるわけじゃない。
高校の頃、一度だけデートに誘われて、その彼とその時一度だけ手をつないだ。そんな思い出を大事に大事に今まで温め続けている恋愛初心者。
「へっくしょん」
「あのね」
「何?」
「お風呂入って、着替えた方がいいよ」
「だけど」
「知ってる。ひかりの家は遠い。一時間も電車の冷房に当たってたら確実に風邪ひく」
「良、私、着替えなんて持ってないよ」
「僕の部屋なら一つ先の駅だから」
「え!」
「うん」
「いいの?」
「うん。ジャージぐらいならあるし。お風呂入って、しばらくそれ着てればいい。アパートのすぐそばにコインランドリーがあるから、濡れた服は乾燥機にかけられる」
「ひゃあ」
夕立が来ると私、良の家に初お邪魔
「行こう。ひかり。止んだ」
「はい。良」
キジバトが、ぽーぽぽーぽぽー、と鳴いて、蝉も鳴き始めて。
夕焼雲のこっちにきれいな虹が出て。
私たちは手をつないだまま銀色の道を歩いた。駅はもうそこ。
「あ。ひかり、百均に寄る。体拭こう。タオル買ってくるね。店の中、冷房利いてるからここでちょっとだけ待ってて」
「あ。ありがと」
「桶も買わないと」
「ん?」
「僕んち、安アパートでシャワーないんだよ。湯船から桶でお湯を汲んで洗う」
「へえ。珍しいね」
「でもこないだ、桶に足突っ込んで壊しちゃってさ」
「はは」
「一人だったら洗面器とかで適当にお湯汲むけど、ひかりが入るんなら買わないと」
「あ」
「何?」
「夕立が来るとさ」
「ん?」
夕立が来ると桶屋が儲かる
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