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一年前の夕立の日、私たちは始まった。 大学のレッスン室に忘れた楽譜を取りに戻って校舎を出ようとしたら夕立だった。そして、建物の出口のところで凸筒君が空を見上げていたのだ。 凸筒君は黒い傘を持っていたけれど、豪雨の中、飛び出していくつもりはなかったらしい。でも、私は個人的に習っている先生のピアノレッスンがあって急いでいた。 二人は語学のクラスが同じなだけで、その時まだ私は彼と話をしたことがなかったけど。 「あの。ええと」 「はい?」 「夕立ですね」 「すぐ止むよ」 私はその時、彼の名前も知らなかった。 「あの。ええと」 「はい?」 「ええと。お名前が」 「あ。とつつつ、です」 そうだ、読み方のわからない苗字の学生が一人いた。 彼だったんだ。 「あの。私は」 「恩知さん」 「あ。覚えててくれてる」 「うん。名簿とね、照らし合わせた。一応みんなの名前は覚えてます」 すごい。というか、私そういうの、もうちょっとちゃんとしないと。 「おんちさん、でいいんですよね。音大生なのに、おんちさん」 「はい。絶対音感はありますけど、おんちです」 「ははは」 「あの。それはそうと、凸筒さん、私、駅で見かけたことあります」 とつつつ、って言いづらい。 「あの。駅使って帰るんですよね」 「はい」 「その。傘に入れてもらえませんか?私これからレッスンがあって、遅れちゃうので、その」 なんと凸筒君は、その黒い傘を私に貸してくれたのだった。 「僕は急いでないから、雨宿りしながらでも帰れます。家も一駅先だし遠くない。どうぞ、持ってってください」
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