給食ジャンケン

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給食ジャンケン

 給食は欠席者がいると余る。それを巡って行われる愚行、それが給食ジャンケンだ。勝てば雄叫び、負ければ雄叫び。最初はグーと賞品が誰かの手に渡るまで繰り返され、敗者は勝負の輪から外される。  本日の欠席者は1人。各種1つずつ余っており、順番に給食ジャンケンが開催されている。最初はグー、最初はグーとまるでバカのひとつ覚えなのが気に食わず最初にパーを出したからと言って反則負けにしなくてもいいだろうに。  そもそもの話。給食というのは適正量がある。おかわりをするというのは過剰摂取だ。いくら育ち盛りだとはいえ、何でもとりすぎはよくない。だが、僕には圧倒的にカルシウムが足りない。それはこの細い腕と低い身長を見れば一目瞭然だ。それについ先日まで骨折で入院していたのだからもう少し優しくされてもいいと思う。だから僕に牛乳が与えられるべきなのだ。なのに。 「よっしゃあぁぁぁあああ!!」  背の高いやつが勝つという理不尽なことが起こった。参加した17人の中で最も高く、推定180cm以上はある。筋肉質で骨太なのは明らかだ。もし折れた骨がどこかの臓器に刺さって死んだら地獄の果てで呪い続けてやるからな。 「次、揚げパン欲しい人~」  糖分を過剰摂取している不摂生な奴らが集まってきた。揚げパンは僕の大好物だ。摂取量の過剰分は他のを残すことで調整するから万全。糖分で勉強の効率化を図るため、この勝負は負けられない。 「最初は、」  グーのはずが、口裏合わせたかのように僕以外の全員がパーを出し、勝敗は決したとばかりにまた僕を勝負の輪から外してくる。圧倒的数の暴力。赤信号はみんなで渡れば青信号なのか。抗議する間もなく2回目のジャンケンで一人勝ちしたやつが「ぃやったー!」と雄叫びをあげていた。いかにも少食そうなやつだ。少量でお腹いっぱいになりそうな見た目をしており、絶対揚げパンだけ食べて他のは残す気だ。本当に残したら後で先生にチクろう。食べ物を粗末にする気でおかわりなんて僕が許さない。 「サル邪魔」  自席に戻る途中、太った男子が茶碗片手に僕の進行方向にわざわざ立ちはだかってきた。僕が無言で道を開けると、避ける気もなく巨体ぶつける勢いで横を通り過ぎて行った。若干の苛立ちを覚えたが、そういうやつなんだと飲み込む。サルという呼ばれ方も僕が猿顔なのでどうしようもない。そうやって自己完結していかなければ社会に出た時苦労するとおじさんが言っていた。  入院前はサル、サルと面白がっていたやつらも今では僕に構わなくなっていた。友達、恋人、部活、勉強、遊び、その他学校行事に勤しむやつらは僕にかまう暇なんてなくなり、やがて空気のように扱ってくる。であればいっそのことルフィとかにして欲しかった。それなら僕はクラスの中で、たまに濃くなる影の薄いいじられ者ではなかったのかもしれない。  とにかく、だ。入院後の僕は、自己都合でたまに呼ばれてはまた影を薄めるサル顔のやつ、通称サルになっていた。
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