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「猿井くん」
「……何ですか?」
昼休みにクラスの人気者である……えーっと名前は……たぶん村越、が話しかけてきた。たぶんと不確定なことに文句があるなら僕の朧げにしか記憶していない脳に言ってくれ。関わりがないから覚える必要がないが人気者ゆえにぼんやりと耳に入ってきていた。
「これ運ぶの手伝ってくれない?」
教卓にあるノートの山が二つに分かれていた。もう僕が運ぶ前提で分けられているかのような気がした。可愛いから私の頼みなら当然聞いてくれるよね感があった。
「あーちゃん、私が手伝うよ!」
ドンと横からタックルされる。まるで交通事故から助けるために庇ってもらったような感覚だった。まぁ実際、あのままだったら事故っていた。でも感謝はしない。なぜなら僕はこいつら、特にたぶん村越さんが嫌いだからだ。
顔がいいだけでチヤホヤされて、せっかく勝利を手にして得たあげぱんがそいつに貢がれていたなんてことを知ったから嫌っているわけではない。僕が嫌っているのは所作にある。
例えばあげぱん。食べるときに気取ったように顔を斜めに傾け、口や服に砂糖がつかないように気をつけながら食べてやがる。その綺麗な顔を自ら汚すような不名誉極まりない行為は避けているんだろう。きっと幼少期にはお砂場で遊んだことはなく、お家でお人形さんとおままごとをしていたのだろう。僕も砂場で遊んだことないけど。
そして僕を「サル」と呼ばずに「猿井くん」と呼ぶのも馬鹿にしているのだろう。僕は「更井」だし。
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