青春

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「……なんで?」  一回も勝てなかった。5戦5敗、これで6敗目。惜しい試合などなく、一方的に痛めつけられて倒される。たぶん村越さんは絶望的なまでに強かった。ちなみに質問は「生年月日」「趣味」「特技」「好きな食べ物」「嫌いな食べ物」だった。 「くそっ」 「じゃあ質問、クソ猿ってコミュ障じゃないよね? なんでいつも一人でいるの?」 「それ質問2つだろ」 「じゃあもう一戦」  また負けた。こちらがいくら遠距離攻撃をしても緊急回避でかわされ距離を詰められる。カウンターを狙った攻撃も逆にカウンターをくらってしまう。僕が弱いとかでは決してなく、たぶん村越さんが強すぎるのだ。 「はい、質問に答えて」 「えっと……なんだっけ?」 「まず、クソ猿はコミュ障じゃないよね?」 「知らん、マジで知らん。そもそもコミュ障の定義が、」 「あ、めんどくさいからいいや」 「あっそ」 「で、次の質問。なんでいつも一人でいるの?」 「なに、自分は大勢に囲まれているからって僕へのあてつけか何か?」 「じゃあ聞き方を変えるね。猿は群れで行動するのに、」 「わかった答えるよ、めんどくさいから、ただそれだけだ」 「ふーん」  別に嘘は言っていない。めんどくさいのは本当で放課後や休日の時間が潰されるのが嫌なのだ。 「もう一戦やるぞ」  今度は動きは遅いが攻撃の威力が高いキャラを選択した。相手の残機は1機で僕は3機での勝負。一発いいのが入れば終わりだ。カチャカチャとコントローラーを鳴らし、何とか大技を決めようとするが上手くかわされ、カウンターをくらう。あっという間に僕の残機は1機になってしまった。 「ねぇ」 「今話しかけんな」 「よくさ」  僕の言葉を無視してたぶん村越さんは話し始めた。 「格闘ゲームでプレイしている本人がさ。攻撃を受けているわけじゃないのに痛いって言う人いるよね」 「ん」 「あれってさ、すごい腹立つよね」 「あっそ」 「痛みも知らないのに知った口きいて、痛いだなんてさ、何様のつもりなんだろうって」 「さぁな」 「それに痛めつけるように操作しているのは、本人なのにね」 「あー」 「コントローラーを握って、安全なところから操って負ければ罵倒する。人格を疑うわほんと」  ドーンと派手な音と演出で僕の負けがまた確定した。チっと紛れて聞こえたような気がした舌打ちは気のせいだと思いたい。 「じゃあ質問ね、クソ猿はさ、どうやって息してるの?」  まるでなんで生きてるの? みたいな聞き方だった。 「鰓呼吸とかいえばいい?」 「……ボケるにしてももっと考えた方がいいよ」 「うっせ、次だ次」  6、7、8戦目はサンドバックにされている気がしてならない雑な倒され方をした。主に遠距離攻撃でダメージを稼ぎ強攻撃で吹っ飛ばされる。緊急回避もうまくタイミングを外されてしまうのだ。ちなみに質問は「好きな色」「性別」「年齢」だった。
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