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地下のホテル、ナハトシュテルンからの炎は、上に向かうにつれ勢いを増していった。
バラの花を模したステンドグラスが、熱を得えてあっけなく粉々になる。
飛び散った一片が珠緒の手を掠めたが、構わずに外へ飛び出した。
半裸の男女や野次馬を掻き分わけて右手へ進み、細い路地へ向かう。
「そっちは危ないよ!」
怒声や悲鳴が響く中、親切な人に腕を引かれたのを振り払い、ナハトシュテルンの裏口に続く階段を駆け下り開き戸を開け放とうとして──羽交い絞めにされた。
「あんた!!死ぬ気か!?」
「いやっ!離して下さい!!婚約者が中に、」
珠緒は抵抗したが、小柄な体は地上へと引っ張られた。
その時──、
ドンッッ!!!
破裂音が響いて開き戸どが蝶番ごと内側から外れ、赤煉瓦の階段に勢いよくぶつかる。
外気に触れた炎は一瞬にして赤く膨らんだ。
眼前に迫ったそれは、珠緒の前髪と睫毛をわずかに焦がしてから、地下へと舞い戻っていく。
「もう助からない。諦めなさい……!」
珠緒は呆然と立ち尽くした。
──彼が、死んだ?
──本当のことは、何もわからないまま……
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