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嫡男を森崎家の娘と婚姻させるまでの間、どうにか侯爵家としての体面を保とうと、桐羽侯爵は先祖代々の家財を売却した。
そうして得た資金で気晴らしに「喘息にも効く、元気になる薬」を服用したのが、彼の運の尽きだったといえる。
結論から言うと、桐羽侯爵は禁断症状が出た際に幻覚を得て、顕久を殺害した。
桐羽侯爵は先生に助けを求めた。侯爵が先生を頼ったのはこれが初めてではないという。
先生の命で顕久に成り代わった時、これは運命だと思った。
委細いさいは省略するが、顕久が病を得てしばらく療養が必要になったという体ていにすれば、世間の目を欺あざむくのは、驚くほどに容易よういだった。
桐羽侯爵家は侯爵の無体のせいで、親戚筋との縁が薄く、使用人の入れ替わりも早かった。
幾人いくにんかをすげ替えるだけで本当の顕久を知る者はいなくなった。
顕久として人生を歩み、その傍らで生活の為に先生の仕事を手伝ううち、「本当の自分」は次第に消えて行った。
当初の計画は3つ。
僕が珠緒を誘拐して森崎家に身代金を請求する事。
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