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身柄を返さずに上海の外国人租界に存在する、あらゆる快楽が味わえるという触れ込みの『娯楽施設』に売り渡す事。
『娯楽施設』の創立者と面識がある先生が、珠緒を取り戻すために交渉役を買って出るとし、森崎家に金銭を要求する事。
だが出来なかった。
計画のため、珠緒の心を奪おうとして──逆に、僕の心が囚とらわれたから。
それでも、先生は計画を実行するに違いなかった。
だから。
「先生……」
「お前、どういうつもりだ?女と逃げたと思ったら、騒ぎを起こして」
「あなたには、恩がある。あなたに拾われていなければ、俺は死んでいた」
「わかってるじゃねぇか。早く女を連れてこい。恩を返せよ」
「だが俺は、もう貴方には従えない」
「あ?何を言ってやがる……」
銃を向けると、先生は目を剥いた。
そして、想定通り──
「てめぇ、親代わりの俺を裏切るとは良い根性をしてるじゃねぇかッ!!」
銃をこちらに向け、躊躇ためらいなく発砲する。
ダンッ!!!
「──!!」
銃声が響いたが、僕は無傷だった。そして先生は、
「……ああ?何だこれ」
血塗みれの手を凝視していた。
絨毯に、ぽたぽたと血が落ちる。
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