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銃が暴発したのだ。
「もう終わりにしましょう」
先生は、信じられないという目で僕を見た。
「以前のあなたは、銃の整備を欠かかさずに行っていた。しかし最近は、ずっと疎おろそかにしていましたね。弾丸が詰まっていることに、気がついていなかった」
弾丸が詰まったまま発砲すると、異常高圧で破裂する。
それは指を失うほどの威力だった。
「あなたは、老いたのです」
要所に撒まいた揮発油きはつゆは、思惑おもわく通りに燃え広がった。
炎はじきにこの部屋へ届くはずだ。
僕の僅かな過去についてを含む、一部の人間たちを脅迫するための資料は、全てが灰となるだろう。
「最後の頼みです。外へ」
「……俺はもういい。疲れた。ここで終わりにする」
「何を……」
ヒュ!!
先生の体を支えようとした時、空気を切り裂いて繰り出されたのは小刀だった。
残った指で支えられたその切っ先は、揺らぐことなくこちらに向けられている。
「行け」
「……!」
振り返ることはしなかった。
炎に追われたのをすんでのところで裏口から飛び出し、空を見上げる。
──終わった。
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