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しかし、誰もその陰陽道が何たるかを答えられないのだ。現当主たる父ですら、決まり切ったことだから考えなくて良いなんて言っちゃうのだ。つまり、本質を知る人はこの時代に皆無なのだ。
もちろん、そうなった理由は解っている。平安の世から今の江戸の世までに多くの時間が流れてしまった。その間に戦乱が続いた。おかげで伝承が途絶えてしまった。だから、残った資料や口伝されていたことを細々と続けるしかないのだ。
でも、陰陽師ってそれでいいのか?
泰久は真面目に悩んでいる。そして説話として残る安倍晴明の数々の奇跡に思いを馳せ、やっぱり陰陽師ってただ儀礼的に祭りをしていればいいものじゃないだろと思う。
思うのだが、誰も知らないのだから教えてもらえない。自分でも調べてみるのだが、あまり頭がいいとはいえず、捗らない。
「ぐぬぬっ」
泰久は陰陽寮にある自室の机に向いながら、唸ってしまう。
「また博士殿は謎の悩みに取り憑かれているぜ」
すると、廊下から部下たちの声が聞こえた。
「何が不満なんだろうな。帝の覚えも目出度く、何不自由ないっていうのに」
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