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肯定の空
ここで告白をしよう。
海沿いのテトラポットから上一面が赤く染まり、黒だかグレーだか、青だか表現しずらい雲がまばらに赤色を引き立てていた。
告白なんてした事がない。したら相手が困るからだ。
世界はノーマルの為にある。例え、「今は時代が時代だから。」と言われても、アブノーマルな者はそれを信じない。
他人の話にいつも身を震わせる日々で、35年も経ってしまった。
小学校の頃は、友達との距離感が変じゃないかと噂されたのを聞き、すぐに行いを省みた。
中学校の頃に、隣のクラスの同性愛者がすぐに摘発され、ノーマルの優しい嘘に怯えるようになった。
成人してやっと見つけた集いの場で、元彼氏にアウティングされたらしい男が、職を失って管を巻くまで飲んでいるのを見て、二度とその場所に行けなくなった。仲間だって、明日は敵かも知れない。
別にいい。別に好きにもなれないのだから。大丈夫。
そう自分に言い聞かせて、自分を騙し続ける。
異性には、正しい興味を持てない。
同性には、自分の間違った興味を押し付けられない。
そうしたら、「好きになってもいい人」なんてどこにも居なくなった。
今は、自他ともに認める「博愛主義者」だ。
会社帰りに友達から、前のデートの時に見つけたという絶景スポットに1人で寄ってみた。
降りたことのないバス停で、恐る恐る教えられた道を進む。
「お前も、デートの時に使っていいよ。」
ありがたい事に相手がいないとは思われていないみたいだった。
随分遠くからでも、視界は赤く染まった。
近づくにつれ、友達の言葉に納得する。
「俺、あそこでプロポーズしたら断られない気がする。」
確かに。ここで愛を伝えられて断られるなど想像出来ない。
付き合っている人などいない。
それどころか、自分の素性を話した事もない。
話したいと思ったことも無い。
それでも、「いいよ。」と言われてる気がした。
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