寝るだけの仕事

5/11
前へ
/11ページ
次へ
「ここか」  沙菜がプリントアウトしてくれた地図によると、このビルの中のはずだ。 今どきの、オフィスがいくつも入ったような建物の12階。 地図を折りたたんでかばんにしまい、エレベーターで目的のフロアまで向かう。  『12』が点滅し金属製の扉が開くと、『睡眠研究所』という看板が見えた。 恐る恐る近づき、首だけ突き出して中の様子を窺う。  壁も、開放的に開け放たれた扉も、仕切りとして使われているカーテンも全てが白かった。 扉のすぐ右側に受付があり、そこに立っているスタッフまでもが白い服を着ていた。 だらしなく口を開けて覗き見している自分が急に恥ずかしくなり、咳払いをして受付に近づく。 「あの、アルバイトで来たんですけど」 「お待ちしておりました。柏木様ですね」  受付の女性は丁寧に頭を下げ、隆太を奥の部屋へと案内した。 「それでは、こちらで少々お待ちください」  通された部屋は、入り口と同じように何もかもが真っ白だった。 部屋というよりは分厚いカーテンで仕切られただけの空間といってもよかったかもしれない。 自分と受付女性以外に誰もいないのか、カーテンに防音効果があるのか、不思議と周りの音がほとんど聞こえなかった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加