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「お待たせしました」
受付女性と入れ替わりに現れたのは、顎に白い髭を生やしたいかにも学者風の男性だった。
白衣のような服装から、一層医者を連想させる。
「あ、柏木です。よろしくお願いします」
隆太は軽く会釈をすると、手で促された丸い椅子に座った。
男性はバインダーに挟んだ紙を見ながら話し始める。
「えー、電話でもご説明しましたが、これから3か月間、週に2回こちらに来ていただきます。
交通費は支給できませんが、時給は電話でお伝えした通りお支払いします」
隆太は説明の邪魔にならない程度に小さく「はい」と頷く。
男性はどうやら、この研究所の所長らしい。
「基本的にはここに来て、そこのベッドで寝てもらうだけの簡単なお仕事になります。目安は1日2時間です。
確実に寝ていただけるように、前日は睡眠時間を短めにとることをお薦めします」
今度は声を出さずに小さく頷く。
これも電話で事前に聞いていた内容だ。
沙菜から紹介された仕事は、短期のアルバイトだった。
できれば定職にしたかったが、なんせ寝るだけなのだ。
数か月でもあるだけありがたいと思おう。
「説明は以上となりますが、何か質問はありますか?」
いくつかの注意事項のあと、所長が初めて顔を上げた。
「僕が寝ることによって何の役に立つのでしょうか? これは何のための仕事ですか?」
隆太はずっと抱えていた疑問をぶつけた。これは電話でも今日の説明でもなかったものだ。
「詳しいことは企業秘密ですが、睡眠の質に関する研究、といったところでしょうか」
なるほど。だから睡眠研究所なのか。
分かったような分からないような気になって曖昧に頷く。
それを納得したと捉えたのか、所長も深く頷いてから立ち上がった。
「それでは、開始しますね。睡眠の妨げにならないよう、スマートフォンと腕時計はこちらでお預かりします」
隆太も慌てて立ち上がり、ポケットからスマートフォンを取り出した。
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