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けれども、音を立てないように寝室を後にしようとドアノブに手をかけたその時、背後から「ねえ」と声をかけられた。ユウコの声だ。 「あら、おきちゃったの」 ユウコは眠そうな目を擦りながら、ドアの隙間から寝室に流れ込む光に照らされてぼんやりとこちらを見つめていた。 「遅いよ」 「ごめんね。今日は仕事が長びいちゃって」 「最近はいつもじゃん」 ユウコは不満そうな顔をしてみせた。 「そうだ。それじゃあご本読んであげようか」 マリが半分開いていたドアを閉めてしまうと一瞬あたりは暗闇に沈んだ。そうして、彼女はまたユウコの方へ歩いて行って、ベッドのそばのナイトテーブルの上のランプをつけてやった。白い光に照らされたユウコの顔が闇の中に映し出された。少女はようやく笑顔をみせた。 「何かいいのがあったかな」 マリはそう言いながら、ベッドの下にしまってある何冊かの絵本を探ってみた。そのうちの殆どはもう何度も読み聞かせてしまって、内容も分かりきってしまったものばかりだ。それでもユウコは母親が読み聞かせる話をいつでも喜んで聞いていた。 マリはそのうちの絵本の一冊を取り出してユウコに示してみせた。それはもう随分前に買ったものだったから、表紙はボロボロになってページも所々破れかかっている。 「ほら、これはどう?好きだったでしょ」 ユウコは何も返さなかったが、マリはともかくもベッドの上に腰を下ろして、初めから読み始めた。
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