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「もしかして、何か嫌なことがあるの?」 ユウコはこれに対しても暫く何も返さないでいたが、終に「……先生に、怒られるから」と小さくつぶやいた。 「そうなの。どういう時に怒られるの」 「問題がわからないと怒られるよ」 「問題って、算数の問題とか?」 「うん。だけど、すごく難しいやつでも怒られるよ」 「……怒られるって、どんなふうにして怒られるの」 マリはいつの間にか、ベッドのシーツを汗ばむ手で握りしめていた。 「ぶたれたりするよ」 ユウコはそう言いながら、左手で拳を作って何か殴りつけるような動作をして みせた。 「どこをたたかれるの」 「頭とか、腕とか……」 「ちょっと見せて」 ユウコの右の腕の袖を捲り上げてみると、なるほど肘の上のあたりに痛々しい青アザができている。 最近ずっと帰りが遅かったせいでユウコは一人でシャワーを浴びることが殆どだった。だからこんなことにも今の今まで気が付かなかったのだ。 内心はらわたが煮え繰り返る思いがした。けれどもどんなに自分が憤ったところで何の意味もないこともよくよく承知していた。
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