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いざフランスへ
パティシエになる夢を叶える為、俺、千夜保は高校を卒業したその足で、フランス行きの飛行機に乗った。
フランスへ行くのは、夏休み以来だ。
料理部を対象にした、高校生の料理コンテストがフランスで開催される事になり、当時の料理部部長で友人でもある山村凌を応援する為に複数でフランスへ渡ったことは有るが、単身、飛行機に乗るのは今回が初めてだ。
指定席へ座ると、出発までの間、彼女の諸橋香澄の写真が入ったロケットペンダントを眺めていると不意に流暢なフランス語で話しかけられた。
「隣に座りたいんだけど、良いかな?」
俺が足を投げ出していた為に窓際の隣の座席に座れなかったのか、見ると白人の男が少し困った様に俺を見ていた。
あれ…何処かで会ったか?
男を見上げた途端、何故か、そう思った。
歳は俺と同じくらいか、指には包帯が巻かれている。
俺が足を引くと、男は「ありがとう」と笑顔で言って席へ座った。
俺は構わずロケットペンダントを胸ポケットにしまう。
「何を見てたんだい?」
男が気さくに話し掛けてくる。
これからのフランスまでの直通の12時間の長旅、退屈するかと思っていたが、思いもかけねー話相手が出来た。
「なんだって良いだろ」
まだカタコトのフランス語で、つい突き放す様に言っちまうのは、今に始まった事じゃねー。
その時、何故か視線を感じた。
『アテンションプリーズ、アテンションプリーズ。当機は間もなく離陸致します』
放送が掛かり、飛行機が動き出す。
滑走路から、空へ。
フランス行きの飛行機は飛びたった。
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