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30分ほどあてもなく歩き続け、喉が乾いたなと思い足を止めて辺りを見回した。 でも、どこにも飲み物が売っていそうな店は見当たらないし、自動販売機すら見える範囲にはない。 とんでもない田舎に来てしまったと途方に暮れたが、視界にただ1人の人の姿も入ってこないこの静けさが、今の亮太には幾分心地よかった。 あっちの通りに行けば自動販売機くらいありそうだな。 さっきから肌に纏わりつく湿っけのある空気の正体の方向に、微かに賑わう雰囲気を見出し歩いてみることにした。 途切れ途切れに聞こえていた波の音が、だんだんとハッキリと耳の中に入ってくる。 数十メートル歩くと、T字路に突き当たった。 ザバァーン 目に映り込む全てが、海一色になった。 ザバァーン ここは、海水浴場だろうか。 今はまだシーズンオフで人の姿はまばらだけど、夏にはきっと水着姿で海水浴を楽しむ若者やファミリーでごった返すのだろう。 辺りを見回すと、数メートル先に自動販売機があった。 そちらに向かってゆっくり歩き始めた亮太は、いつの間にか少し小走りになっている自分に気付き、余程喉が乾いていたんだなと思い、少し笑った。 自動販売機の前に着く。 何にしようか。 炭酸? お茶系? いや、ここはやっぱり水かな。 そう思い、ズボンのポケットから小銭ケースを取り出した。 小銭ケースを開けると、そこには50円玉が1個、10円玉が2個、あとは1円玉が5〜6個入っているだけだった。 これでは飲み物は買えないな。 仕方ない。 千円札を出すか。 背中に背負っていたリュックを探り、財布を出す。 これで千円札がなかったら笑うな、と思いながら財布を開けると、1枚だけ千円札が入っていた。 ホッと胸をなでおろしながら、千円札を自販機に入れようとする。 ところが、普通ならスルスルっと吸い込まれていくはずのお札が、全然入っていかない。 あれ?と思いながら何度か試してみるも、どうしてもお札が入らない。 え?なんで? 故障してるのか? いや、でも販売中という表示が出ているから壊れているわけではなさそうだ。 じゃあなんで? そうこうしてるうちにも、喉の乾きはどんどん加速する。 この乾きに乾いた喉を潤してくれるはずの、よく冷えた飲み物を携えた大きな箱を目の前にして、亮太は立ち尽くした。 そして、よーく自販機を観察してみると、釣り銭切れのランプが赤く小さく点っているのが見えた。  釣り銭切れ… はぁ。 ついてないな。 大きく溜息をつき、絶望にも近い気持ちで立ち尽くす。 赤く小さく光る釣り銭切れのランプを見つめながら、お釣りなんかいらないからこの千円で飲み物一本売ってくれと、心の中で懇願したそのとき、ふいに後ろから声が聞こえた。 「そこの釣り銭切れランプ、もう何年もついたままなの。」 驚いて振り向くと、そこには見知らぬ女性が立っていた。 それが、亮太とハルの出会いだった。
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