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白いTシャツにジーンズに薄手のグレーのパーカーを羽織っているその女性は、地元の人間にしては白い肌をしていた。   けれど、何年も前からのこの自動販売機の様子を知っているのだから、きっと地元の人なんだろうと想像できた。 歳は、自分より少し下だろうか。 20代半ばから後半くらいに見える。 腰の辺りまで伸びた長い髪が、海から吹いてくる潮の香りのする風に揺れて、時折太陽に照らされ赤く光っているように見えた。 少し小柄で、絶世の美女というには少し物足りないが、それなりに可愛らしい顔をしている。 クリクリした大きな目で見上げられ、しばし目を奪われ固まってしまった亮太に、その女性はもう一度言った。 「その自動販売機、千円札じゃ今は使えないの。 小銭ないの?」 「え?あ…えっと、ああ、うん。小銭がなくて。」 突然どこかの世界から現実に引き戻されたような感覚で、咄嗟に言葉が出てこずしどろもどろになってしまった亮太。 「ふーん、そっか。私も今お金持ってないんだよなー。」 そう言いながらパーカーやジーンズのポケット探る素振りを見せる。 「あの、ここらへんに飲み物買えるようなお店ないかな。コンビニとか。」 「あー、ないことはないけど…ちょっと歩くんだよね。この先1.5キロくらいかな。」 女性が指差す方向を見ると、海岸沿いの道路が果てしなく続いているように見える。 「この、ちょっと先に行ったところがビーチになってるの。夏になったら海の家もたくさん並ぶし、あの辺りまで行けばコンビニもあるんたけどね。」 1.5キロか…。 歩けない距離ではない。  でも、喉が乾ききっていて冷たい飲み物を浴びるほど飲みたい衝動に駆られてる今、悠々と歩ける距離ではない。 でももう選択肢がそれしかないなら… 亮太は意を決した コンビニがあると教えてもらった方向を指差しながら 「ありがとう。行ってみるよ。」 と言い残しその場を去ろうとすると 「あのさ、もしよかったらうち来る?」 女性がそんなことを言い出した。
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