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クリクリした大きな目でジーッと亮太を見つめながらそう言う女性を、亮太も見つめた。 「ああ…そっか。」 「うん。でも、なんでここにいるの?とか、ここに何しに来たの?とか、そんなこと聞かないから安心して。」 そう言って、ニコっと笑った。 その顔を見ていて、思わず亮太にも笑みが溢れる。 「…とりあえず。これ、ありがとう。飲んでいい?」 「どうぞ。」 女性がくれたペットボトルの蓋を開け、水を飲んだ。 ゴクゴクと、ペットボトルの半分くらいまで一気に飲み続ける。 渇ききった体の隅々に、水分が行き渡っていくのが分かった。 人は、こういう瞬間に『生きてる』と実感するものなんだろうなと、頭の片隅で感じた。 こんな感覚、いつ振りだろうか。 たった一本の水で生き返った!と思えるくらい、人間は単純な生き物なのに。 なぜ、物事を簡単に考えることができないのだろうか。 いや、寧ろ考えることすら、しなくなれれば楽なのに。 ペットボトル一本をほぼ飲み干して、ふと海の方へ目をやった。 絶え間なく生まれては消える白い波と、太陽が照らしてキラキラ光る海面を見て、思わず口から言葉が零れ落ちた。 「綺麗だな…」 女性も海の方へ目をやる。 「うん。綺麗。一生見てても飽きない。」 「ハハ。一生?」 「うん。一生。毎日見てるけど全然飽きないよ。毎日同じ海を見てるけど、毎日表情が違うしね。」 「表情?」 「そ。晴れてる日のキラキラした海。雨の日の暗い海。風の強い日の荒々しい海。夏の海水浴シーズンにはたくさんの人の笑顔を包み込む優しい顔になるし、人があまり来ないオフシーズンにはただ静かにそこに佇む」 「好きなんだな。海。」 「うん。大好き。私ね、本当はここの町の出身じゃないの。たまたま旅行で来ただけなの。でも一目でこの海が好きになって、移り住んじゃったんだ。」 「へえ、そうなんだ。」 「ここでね、民宿開きたくて今準備してるところなんだ。」 「民宿?」 「そ。」 彼女は嬉しそうな表情で、目の前の一軒家を見上げた。 「民宿って、ここで?」 「そ。いいでしょ?ここ。目の前に海があって、ロケーションは最高。そんなに広くないけど庭もあるから、そこでバーベキューとかもできるの。元々は普通の民家だったんだけどね。安く売り出されてたから買ったの。今流行りの古民家ってやつ。自分で少しずつリノベーションしてるとこ。」 「自分で?凄いな。」 「祖父が大工だったからね。一通りの知識はあるんだ。」 「パワフルだね。」 「それって褒め言葉?」 「もちろん。」 「そっか。あんまり女性に向かって言う褒め言葉ではない気がするけど、まあいいでしょう。ありがとう。」 そう言って笑う彼女の顔に、思わず釘付けになってしまう亮太。 海の光に照らされてキラキラ光るその瞳から、何故か目が離せなかった。
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