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海の音が聞こえる。
規則正しく寄せては返す、砂浜を静かに打ち寄せる波の音。
少し前から、肌にまとわり付く塩っ気のある湿気で、海が近いことは察しが付いていた。
小さなローカル線で降りた名も知らない先程の駅は、いくつか通り過ぎた無人の駅に比べたら少し駅前も活気付いているようだった。
東京駅から在来線を適当にいくつも乗り継いで、ここまでやってきた。
ここが一体どこなのかも、実はよくわかっていない。
亮太が東京の自宅を出たのは一昨日の夜中だ。
闇に紛れて東京駅近くまで行き、始発になるまでブラブラと歩いて時間を潰した。
どこかあてがあった訳じゃない。
なんとなく、南に行こう。
そう思った。
何時間も電車に揺られ、適当な駅で降りては
別の行き先の電車に乗る。
電車の窓から見える景色が、だんだんと長閑になっていくのを眺めながら、亮太は昨日までいた世界から自分が消えたらどうなるかを想像していた。
大騒ぎになるだろうな。
いや、案外誰も気にも止めないかもしれない。
少し困る人はいるかもしれないけど、俺の代わりなんていくらでもいる。
多分、どうとでもなる。
俺なんていなくなったって…。
さっきまで曇っていて、空を厚い雲が覆っている。
その隙間から微かに射し込む光を、亮太はなんとなく見ないふりをした。
今の自分には、暗闇が似合う。
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