初めて会った時は

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初めて会った時は

「こんにちはーカモシカ便でーす」 「お世話さまです」 恵実(めぐみ)と初めて会った時、 恵実はまだ俺じゃない人の奥さんで、 商店街の小さな商店で店番をしていた。 俺はそこの地域の担当になった配達員だった。 タイミングってあるんだよね。 運命とか信じてなかった。 けど…、今思えば ホントにいろいろ折り重なって、 “出会うべき時に出会うべくして出会った” としか言いようがない。 その頃の俺にとって、 恵実は単なる“配達先のおばさん”ってだけで、 全くと言っていいほど気にかけてなかった。 だから恵実がオレのこと見てるって気づいて、 それが恋愛的な視線だって思った時は、 いろんな意味で衝撃だった。  自分で言うのもなんだけど、 俺、割とモテるほうだし、 こんな人妻のおばさん相手にしなくても、 女に不自由はしてない。 でも、恵実も絶対俺のこと好きなのに、 業務以外のことは話さない。 その態度にちょっとイラついてしまった。 進展なんてはじめは微塵も感じられなかったし、 恵実の義実家である商店で会うだけだった。 ある時恵実のところへの荷物がいくつか続いて、 そのあとぱったりと配達がないときがあった。 そんな些細な出来事で、何故か俺は 『あぁ、会いたいなぁ』 って思ってしまった。 尻尾あったら全力でふってそうなくらい、 嬉しそうにカモシカ便を待ってる恵実が愛しく思えたのだ。 周りからは反対されたけど、 俺は恵実にLINEのIDを渡すことにした。 配達があった時に小さなメモにして渡した。 かなり勇気のいる行動だった。 『カモシカ便のなかじま ふうとといいます よかったら連絡ください』 今思えば、人妻にこんな手紙出すなんて、 頭おかしいかよっ!と自分に自分で突っ込みいれてしまう。 そんな勇気ある俺の行動だったのに、 恵実からの連絡はなかなか来なかった。 よく考えたら、 例え恵実が俺のこと好きだとしても、 恵実くらいの年齢になれば慎重になるのは当然だろう。 でも— やっぱり何の取り柄も得もないおばさんに焦らされるのは、 正直イライラした。 10日ほどたってやっと連絡が来る。 ※小口商店のおぐち めぐみといいます  ※IDありがとうございます 初めてのLINEはこんな業務的なもので、 俺は— 『こんなに待たせてこれだけかよっ!』 って思った。 だって絶対俺のこと好きなのに、 こんなチャンス与えてやったのに、 なんでそんな全力バリケードの反応なんだよ、 って思うじゃん? まぁ冷静に考えたら恵実の反応は正解なんだけど、 なんか“俺が恵実に惚れた”と思われたくなくて、 はらがたったのを覚えている。
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