よく見たらかわいい

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よく見たらかわいい

約束の当日—。 約束のコンビニで恵実を待つ。 ただの嫉妬から恵実との距離を勝手に詰めたのに、 まだ心の中ではこれでいいのか迷いがある。 だってこれはもう不倫の一歩手前だ。 お互いの気持ちを伝えてないだけで、 もはや引き返すのは難しいところに来てしまった。 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、 コンビニのすみに車を停めた恵実は、 いつもより多めに尻尾をふっている。 コンビニでペットボトルの水を買って外にでる。 車のそばにいくと、 「お待たせしてごめんなさい」 といつもの調子の恵実がいた。 「いやこちらこそ迎え来てもらっちゃってごめんね。 ありがとう」 俺の言葉に、はにかむように首を横にふった。 助手席ははばかられるのか、 「後ろどうぞ」 とドアを開けてくれる。 俺も何も聞かずに乗り込む。 道中、あまり会話はなくても、 恵実はずっと嬉しそうにしてた。 相当俺のこと好きなんだろうなとか邪推。 旦那とどうなってんだろ? これもまた邪推。 スナックはほんとに田舎のスナックで小さい店舗だった。 「こんばんは」 恵実がそっとドアをあけると、 「いらっしゃい…あっまいちゃん」 とママらしき人がカウンターの中から声をあげた。 “まいちゃん?” 俺が不思議そうな顔をしていると、 恵実が恥ずかしそうに言った。 「あっ 私、一応源氏名『まい』だったんで」 いっちょまえに源氏名とかあったのかよ。 そう思ってしまう。 ママが俺の顔を見て、 「あれ?常連以外で同伴なんて初めてだね」 と言って驚いていた。 恵実はそれには何も言わずににっこり笑った。 そして俺を見て、  「カウンターでもいいですか?」 と聞いてきた。 正直その方が俺もありがたい。 たぶん恵実も俺と2人でボックスは、 ハードルがたかかったんだろうな。 そのスナックは恵実にとって居心地がいいみたいだった。 商店にいるときとは別人のように、 よく喋りよく笑い、天真爛漫な姿を見せてくれた。 よく見たら服装も違っている。 運転してるときは気にならなかったけど、 俺のためなのかただ単によそいきなのか、 白のロングワンピースは恵実を可愛らしく見せてくれた。 もう自分をごまかせない—。 そう思えるくらい恵実のことが好きになっていた。 ママがレストルームに外した時に、 俺は酒の力もあったのか恵実の手にそっと触れてみた。 小さくて子供みたいなて。 このときに、この手を離したくないと本気で思った。
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