それは俺にとって

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何か言いかけた俺に、 恵実は勘違いしたみたいで、 「こんな話聞かせてごめんなさい」 と言って車を停めた。 いつの間にか待ち合わせたコンビニについていた。 聞いたことのないバンドの歌声が恵実の車に流れている。 「今日はありがとうございました」 この子はすぐに笑顔を作れる。 天才的だ。 俺は思い切って聞いてみる。 「ねぇ」 少し酔ったふりをする俺はずるい。 「恵実さんは、俺のこと好きでしょ?」 何となく恵実はこういう聞き方したら、 逃げられないんじゃないかって、 そう思いながら聞いている自分がこざかしく思える。 やっぱり、というべきか、 恵実はうつむいてしまう。 「ねぇ、なんかほかの全部みんな関係なくって、 純粋に考えたらどう?」 ゆっくりと追いつめていく。 きっといろんなこと考えて答えられないでいるんだろう。 そんな邪推をしている自分が笑える。 でも言わないなんて許さない。 運転席に身を乗り出して顔を近づける。 この暗がりでもわかるほど、 赤くなっている恵実に追い打ちをかける。 「じゃなんでLineくれたの? なんで飲みに誘ったの? なんであんな話したの?」 心臓の音聞こえそうなくらい、 お互いに息が整ってない。 「恵実?」 初めて呼び捨てにしたその名前は、 自分でも驚くほどの破壊力があった。 「…好き…です」 うるんだ瞳で覆いかぶさる俺を見上げて、 か細くつぶやくしかできない恵実を、 年上なのにかわいいと思って、愛おしさがこみ上げた。 ちゅ…。 「おりこう」 無意識にそういって、 俺は当たり前のように恵実のおでこにキスをした。 恵実はさらに顔を赤くしているのがわかる。 ほんとかわいい。 もう、まじで手放せないからね。 心の中でそう呟く。 「か、からかってるならほんとに許しませんよ」 からかってはいないけど、 恵実の反応は面白いとは思っている。 「ま、まぁ、楓人君酔ってるし、 今日のことはなかったことでも大丈夫です」 と窓の外に視線を移しながら言った。 「バカじゃないの?なかったことになんかさせねーわ」 もう、俺本気だし。 「恵実さんこそ、 俺にこんな話したこと後悔しないでね?」 だって俺にとってはチャンスでしかないし。 「今日は楽しかった。またLineするね」 そう言って車を降りた。 そして恵実の顔を見て思う。 わかりやすすぎ。 恵実はむちゃくちゃさみしそうな顔をしてた。 俺ももっと一緒にいたい。 でもまたね。 俺が窓越しに手を振ると、 恵実はやっぱりにっこり笑って手を振り返した。  
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