空想海中譚

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自分の頭の中は広くて深い、まるで海みたいだ。 海と言っても時々、色が変わる。 鮮やかなエメラルド色がだったり、落ち着いたコバルトブルーだったり。 時に錆のように赤くなったり、嵐のように荒れたりする。 そんな表情がコロコロと変わる海にも、生物(アイデア)はもちろんいる。 小さなプランクトン《単語》を食べると生物(アイデア)は、気泡(言葉)を吐きだす。 その気泡(言葉)がやがて新たなプランクトン《単語》に変わり、食べたり食べられたりする。 そうして、生物(アイデア)が増えていく。 仲間を増やしていく。 広々とした海の中を自由に泳ぐ生物(アイデア)達はある時、光があまり届かない深海の世界で蜘蛛の糸のようなものに引っかかり、あるモノの中に吸収される。 その中では一旦、吸収された生物(アイデア)がプランクトン《単語》にと消化・分解され、そのモノの栄養(文章)として蓄えられる。 長い間蓄えられた栄養(文章)は固まり、光り輝く小さな鉱物(物語)として生まれ変わる。 歪な形の鉱物(物語)や大きくて綺麗な形など、形や大きさ、光り方に様々な違いがある。 けれどこの鉱物(物語)は、潮の流れや些細な事で簡単に傷付き、壊れてしまう。 その為、岩より硬いこのモノの中で長いこと閉じ込める必要があった。 深くて暗い深海の中で、この鉱物(物語)が外の世界を見るのはもう少し、先の話。
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