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ガジュマルの樹の下で
寝床にしているガジュマルの樹に登り、空気の匂いを嗅ぐ。湿った風が肌を撫で付ける。
「カタブイが来る」
俺が大樹のうろに潜り込むと同時に、よく晴れた空にはたちまち大きな雲が広がった。
突然、「ザーッ」とまるでバケツをひっくり返し たような大雨が降りだす。
ここは晴れているのに向こう側は大雨。だから片降い。
島の人間なら誰でも知っていることだ。珍しくもない。
だが俺の耳はバシャバシャと水を跳ね上げて走ってくる小さな足音を捉えた。
「誰か来る」
俺は体を起こしウロからヒョイと顔を覗かせた。
すっかり濡れ鼠になった5歳くらいの娘がガジュマルの木陰に駆け込んで来て、ハァハァと息を整えながら泣きそうな顔で濡れた着物を絞っている。
こんな森の奥まで、たった一人で駆けてきたこの娘に、俺は興味をそそられた。
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