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襲撃
まだ明るい山道を人目も気にせず俺は駆けた。
ビュウビュウと耳元で鳴る風切り音が痛いくらいだったが、そんなことで足を緩めるわけにはゆかぬ。
森を抜けた先に見慣れた焦げ茶の着物が見えた。
「ウミカナ!」
叫ぼうとした俺は慌てて木の幹に捕まり身を隠す。
ウミカナの周りに3人の人間が寄ってきた。
「おお、ウミカナでないか」
「明日はいよいよ身売りだそうじゃな」
「この村は貧しくて鶏ガラのような娘っ子ばかりだが、どうしてどうしてお前は肉付きもええ」
「さぞかしええ値がついたろう」
「孝行な娘じゃ」
ウミカナは黙って下を向いて固まっている。
男どもの言っていることはさっぱり分からなかったが、ウミカナの様子から察するに俺はいい感情を持てなかった。
「なぁ、どうせ辻にいきゃあ客を取るんじゃろうが?」
一人がウミカナの腕を引っ張った。
「俺ら尾類買う金なぞないんでさぁ。行く前に、ちと相手しておくれ」
逃げようと走るウミカナに男が飛びついた。
「大人しゅうせんか!」
脅すように腕を振り上げる男の下で、ウミカナの涙声が聞こえた。
「……キジムナー……助けて……」
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