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対話
「どうした、濡れたか? 降られたか?」
思わず声をかけたなら、娘はキョロキョロと辺りを見回す。
その様子がおかしくて俺はフフと声を上げる。
突然降ってきた笑い声に怯えるでもなく、娘も一緒にふふふと笑う。
「濡れてしもぅた。これではまた、どんくさい娘だと叱られる」
「雨に濡れたくらいで叱られるとは。そんな家、俺にはかなわん」
娘はまたクスクスと笑った。
「着物も泥まみれじゃと叱られる」
「小川で流していきゃあいい。日の入りまでにゃあ乾くじゃろう」
「小川にゃ、近寄っちゃならんと言われとる。恐ろしい妖怪に、魂を取られる」
「心配要らん。俺が見張っておいてやる」
「あんたは妖怪が恐ろしくはないの?」
娘が不思議そうに尋ねるので俺は言ってやった。
「なんの! 人間の方がよっぽど恐ろしい」
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