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声の正体
娘が何やら考え込んでいる間に雨は上がった。
「さぁ、行け。急がにゃ里に帰るまでに日が暮れるぞ」
娘はガジュマルの樹を振り仰ぐ。
「ねぇ、あんた、キジムナー※でしょ?」
突然正体を言い当てられて俺は面食らった。
返事をしあぐねていると、娘は少し小さな声で続けた。
「また来てもいいかい?」
俺がまたもや黙っていると、娘は返事を待たずにくるりと背を向けてぬかるんだ山道を下って行った。
「関わるなよキジムナー。同じ轍を踏んではならん。人間に関わるとろくな事がないぞ」
見下ろせばいつからいたのか芭蕉精※が立っていた。
「関わる気なんぞないさ。人間には懲り懲りだ」
俺は吐き捨てるようにそう言うと、住処へと戻った。
※キジムナー
ガジュマルや桑の木に宿っている火の精霊。沖縄県大宜味村の喜如嘉が発祥の地と言われていて、喜如嘉では「ぶながやー」と呼ばれている。
※芭蕉精
鳥山石燕の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』にある怪異。芭蕉の霊が人の姿をとるなどして人を化かすというもの。
ちなみにバナナ (実芭蕉) の仲間である糸芭蕉 (イトバショウ) の繊維を用いて造る芭蕉布は沖縄の稀有な工芸品
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