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別れ
12歳にもなると家の仕事を任されるようになり、ウミカナが森に来る時間は短くなった。
だがウミカナはあれやこれやと理由をつけては握り飯を持ってやってくる。
来れば俺は魚を取って食わせてやる。
だがその日、ウミカナの顔は太陽のように輝いてはいなかった。
「どうした? 腹でも痛いのか?」
俺が尋ねてもウミカナは首を横に振るばかり。
「もう、ここには来られんようになる」
ウミカナはポツリとそう言った。
「家のもんに止められたか?」
俺は妖怪と口汚く罵ったかつての友だった男を思い返し、眉根を寄せた。
ウミカナはフルフルと頭を振った。
「ここに来ることは誰にも言ってはおらん」
「ならどうした?」
俺の口調は知らず尖る。
ウミカナは諦めたように肩を落とした。
「12歳になるまで育ててやった恩を、働いて返せって。明日お迎えがくるらしい」
「迎え?」
「仲買人って言うらしい。あたし……この村を出て行くんよ」
ウミカナの言ってることは分からなかったが、俺のもとを去っていこうとしているということは分かった。
「準備があるから戻らにゃならん……キジムナー、今までありがとう」
ウミカナは太陽とは程遠い弱々しい笑顔でアカバナー※の花を差し出した。
俺がそっぽを向いて受け取らずにいると、ウミカナは困ったように首を傾げ、そっとガジュマルの根に花を置き、里への道を下って行った。
※アカバナー=ハイビスカス
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