人の世の非情

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人の世の非情

 サアッと吹いた夕風に煽られ、ポトリと赤い花が地に落ちる。 「こんな別れで良いのか?」 芭蕉精がしわがれた指でアカバナーを拾い上げた。 「フンッ! いつもは散々関わるなと言っている癖に!」  不貞腐れてそっぽを向く俺の背に向かい、独り言のように芭蕉精は語る。 「お前さんが無知ゆえに老婆心が疼く。教えてやろうキジムナー。人の世の汚れを。 仲買人とは人買いよ。あの娘の育ての親が金で娘を売ったのよ。売られた娘は(つじ)※行き、つまり尾類(ジュリ)※※となる。尾類(ジュリ)とは金で買われて花街で精も根も吸いつくされる女たちのことさ。  あの娘、明日には生き地獄へ連れて行かれるってことだよ」 「なんだって!?」 俺は弾かれたように飛び出した。 ※辻=遊郭 ※※尾類=遊女
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