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午後九時を回り幼い子供達が父の両頬へ唇を合わせる。母の手を握りしめ二階の寝室へと向かう眼差しは、まだ起きていたい甘えを見せていた。
そのつぶらな瞳を見つめながら、父は首を横に振る。
「ユナ、リク、おやすみ」
「パパ、おやすみなさい……」
広すぎるリビングに設けられた階段を上がる二人の幼子は素直に母親の寝かしつけに応じる様に姿を消した。
家族サービスの時間を終え就寝するまでの二時間、リビングと併設する書斎へと入りノートパソコンと向き合いながら大切な仕事をこなす。いつもはデスクトップの大きなモニターで手際よくこなすが、今夜は止む無く小さな画面と向き合う事となった。
「カチャッ」
普段は絵本を読みながら先に寝落ちしている妻は珍しく三十分程で戻って来た様子だ。
「今日はやけに早いじゃないか? 慣れない環境と暑さであの子達も流石に疲れ……」
そう妻に声をかけた時、首筋にはギラギラと輝きを放つ刃渡りニ十センチほどの包丁が突きつけられていた。
「ごくっ……」
パソコンのキーボードに触れたままの指先、最後に一つのボタンを押した後、指示に従い画面を閉じ両手をあげた。
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