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「昨晩だってちゃんと寝てないんでしょ? 今日はリモート会議もないんだし、少し仮眠でもとったらどうだい」
「……う~ん」
僕の声が少しは届いたのか、妻はタブレットをテーブルの上に戻すと、ソファに沈み込むように寝転がった。
結婚した頃に買ったそのロングソファは、すっかりくたびれてしまっている。けれども、そのくたびれ具合が心地よいのか、妻はやがて静かな寝息を立て始めた。
「やっぱり、疲れていたんだね」
そっと妻の寝顔を覗き込む。目の下のクマは濃く、顔色も悪い。やはり働き過ぎなのだ。
――と。
「……たぁくん」
「うん、僕はここにいるよ。大丈夫だから――今はおやすみ」
妻が僕の名を呼んだ。寝言だ。
だから僕も、聞こえていないことを分かった上で彼女の名を呼び「おやすみ」と囁きかける。
果たして、その声が届いたのか。彼女の口元がほんのりと笑みを浮かべ――やがて、閉じられたまぶたの隙間から、一筋の涙が零れ落ちた。
僕は、その涙を拭ってやる事すらできない。
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