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リビングの壁に目を移す。そこには、妻よりも十ほど年下の間抜け面の男が満面の笑みを浮かべた写真が飾られていた。
他ならぬ僕の写真――僕の遺影だ。
僕が不慮の事故で死んでしまってから、既に十年が経とうとしている。
どんどんと年を取っていく妻と違って、僕は写真の中と同じ姿のまま、成仏もできずに我が家に留まっていた。
「……たぁくん、会いたいよ」
再び、妻の口から寝言がこぼれる。
子供達がまだ小さい間は、忙殺されて僕の事を思い出す暇もなかった。彼らが大きくなってからは、仕事が忙しくなり全てを忘れる程に没頭することができた。
けれども、子供達が手を離れ、リモートワークになって一人の時間が増えた彼女を、途方もない孤独感が襲うようになった。その原因は、言うまでもなくこの僕だ。
死んで十年経つのに、まだ僕に未練を残してくれていることは正直嬉しい。けれども、それ以上に辛いし哀しい。僕の死が、彼女に呪いをかけてしまったのだ。
声も届かない、手で触れることもできないこの身では、何もしてあげることができない。傍にいて、届かない言葉を投げ続けることしか。
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