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「さあ、ゆっくりおやすみ…」
僕は彼女の汚れた身体を優しく拭きながら、そう声をかけた。
朝に夜に僕のために戦ってくれた彼女と、ついにサヨナラを告げる時が来たのだ。
装備が貧弱な僕のことを、仲間はよく馬鹿にした。自由に風や温度を司り、時にはターゲットを狙い撃ちできるような魔法を使うようなヤツを相棒にしているヤツら違い、僕は単一能力しかない彼女だけが頼りだった。
そんなパワーも圧倒的なスキルもない彼女。
時には悲鳴を上げて首を振ったりもした。
でも、いくら非力とはいえ、機嫌を損ねると、触れた人間の指を一瞬で切断できるほどの力は隠し持っている。
その辺の差配には、僕も気をつけなきゃいかないんだけどね。
彼女は、僕を守るために尽くしてくれた。
昼の熱い戦いだけではなく、ときには夜も。
ある夜、恥ずかしながら熱くなった僕は、一晩中彼女のお世話になったこともある。
ただそういう時は、朝目覚めた時、寂しそうに一人首を振っている彼女を見て罪悪感に駆られてしまうのだけど。
そんな彼女とも、もうお別れだ。
非情かもしれないけど、仕方ない。
彼女と一緒には、次の季節には行けないんだ。
天に抗う力は僕にはない。
お別れの前に、せめてもの餞として…。
僕は彼女の纏った鎧を外して中身を露にさせた。
普段なら恥ずかしいのかなかなか見せてくれない秘部も露になった。
でももう今の彼女は、ピクリとも動かない。
せめて最後は…、最後は綺麗にしてあげたい。
鎧についた汚れを丁寧に落とし、彼女を彼女たらしめた大きな四枚の羽に触れる。
---こんなになるまで、お前は戦ってくれていたのか…。
戦いの証に塗れたその羽を外して、ゆっくり休めばいい。
僕は込み上げるものを抑えながら、彼女のボディを綺麗に、綺麗に拭き続けた。
少しだけ綺麗になった、冷たい彼女を、僕はゆっくりと抱えて、用意していた箱にゆっくりと横たわらせた。
こんな箱しか無いけど、彼女を収めるのに何も無しというわけにはいかない。
彼女の体を収めても、まだ少し余るその大きなその箱の中に、外した鎧と羽も一緒に収めることにした。
また彼女が復活した時に、再び羽で大きく羽ばたけるように…。
さあ、そろそろお別れの時間だ。
僕はその箱を閉じる直前、最後にもう一度お別れを告げることにした。
ありがとう。
ゆっくりおやすみ。
来年また宜しくね。
愛しの扇風機ちゃん。
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