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市中の西には縁の寺、永宝寺を中心に沢良木家代々の所領がある。
かつて父の側室であった西院殿の為に、永宝寺の傍らに庵を寄進したのはもう二十数年前。西院殿は伊織と和鶴の母方の伯母にあたり、私も父や和鶴の縁を元に今尚尊ぶ御方だ。娘達の髪置きや帯解きの儀式(※現在の女児の七五三)もお任せして来た。
海辺りの小ぢんまりした門前町には長屋が軒を連ね、民が日々を営んでいる。その中に帰蝶は居を構えていた。表向きは畳の修理を生業としていたようだが、時折小間物屋も出入りしていたと言う。
「やはり貴方様は探偵になられるべきです」
「おまえの所領とは言えこの地で私から隠そうと思ったのが間違いだ」
「そうですねぇ……」
「だが、長屋には誰もいなかった。蛻の殻だ。また、どこへ隠したのだ」
「死にました」
桐吾は目を伏せたままはっきりと言い放った。
「昨年師走、最期の時に身を寄せていた西院様の庵にて。今は永宝寺にひっそりと眠っております」
───────死んだ。
昨年………⋯師走………⋯
「秋朝海運の船が出港する……志津眞様が関東へ戻ってゆくその汽笛を聞き届け……眠るように身罷ったそうにございます」
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