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  「(ほまれ)と郁を殺したのは伊織ではない。私と……時代だ。浅はかな主人(あるじ)と古い時代の因習が尊い命を奪ったのだ」  桐吾の目から幾筋もの涙が頬を伝い、流れ落ちる。  伊織を追い詰めたのは私だ。私の幼な過ぎた恋心が伊織を締め上げていたのだ。夫婦でありながら和鶴と添わぬまま、心で伊織を求め……優しい伊織を、和鶴を、沢良木家の者達をみな不幸にした。  あの日。  伊織が消えたあの雪の日、私は伊織に訊いた。 『新しい時代が来たのであろう? 日の本は開かれ、人はみな平等になるのであろう? 私が主君(あるじ)でなく伊織も家臣でなくなれば、伊織は私の念者になってくれるのか』  あの時の伊織の目。  失望の滲んだ鋭い目差し。  伊織が育てたかったのはこのような臆病者ではなかった筈だ。  私は─────いつも思っていた。
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