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伊織はまこと武士だったのだ。
主君に仕えてこそ生きられる武士だった。
新しい時代の幕開けと共に全てを捨て、己の恋のみに生きたいと望んだ私にどれ程失望しただろう。
父が、先祖が築き上げ守って来た梯子を外し、それを縁に登って来る臣民までを振り落とす事に躊躇いすらない主人に、遂に愛想を尽かしたのだ。
悔いても悔いても戻らない。
泣いて詫びても赦されない。
幼さを言い訳にするには、失ったものが余りにも大き過ぎた。
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