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   桐吾に縋るまでの十数年をどのように生きたのかは、窶れた夫婦の姿が物語っていたと言う。 「暫くは伊豆に匿いましたが妻は半年と持たず、兄もまた病に冒されておりました」 「志弦と同じ病か」 「…………はい」  昔、誉から聞いた事がある。誉の父も祖父も叔父達も、みな同じ病で亡くなった。肚に腫瘍が出来やすい家系なのだと。だが誉の父はその病を抱えながらも七十まで生きたし、皆がみな早死にする訳ではないと笑っていた。 「兄を憐れと思い……この地に戻したのか」 「憐れなど」 「おまえのような優しい弟を持って、伊織は幸せだったと思うぞ」  桐吾は何度も頭を振る。 「私はあの者を、今も赦せません……!」 「赦せないと思うのは兄を慕う情の裏返しだ。おまえはとうに伊織を赦している」  横濱からひっそりと船に乗せ、伊織が受け継ぐ筈だった所領の片隅に匿い……  故郷の海を、山々を、今は失き丹羽の城の面影を見て、伊織は救われたに違いない。桐吾が救ったに違いない。たとえおまえ自身がどれだけ否定しようとも、私はそう信じられる。
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