8/13
61人が本棚に入れています
本棚に追加
/130ページ
  「延命、平癒……」 「伊織は、まこと志弦に命を分けてくれたのだと思うよ」  志弦の病が悪化の一途を辿り、廃嫡となってこの地に戻った事は誰もが知っている。伊織がこのチェスを作った真の意味は、甥……和鶴の忘れ形見である志弦の為、この虎目石の王にこそあったのではないだろうか。  桐吾は虎目の台座を握り締めた拳で涙を拭った。 「伊織は何も悪くない。全ては至らぬ私のせいなんだ。どうか伊織を赦し……桐吾、おまえも楽に……自由になって欲しい」  桐吾は目を瞑り大きくゆっくり息を吐くと、顔を上げ、真っ直ぐ私を睨んだ。 「兄を赦し……自由になったとしても、貴方様がいなければ私に生きる意味などありません」 「私はおまえのものだといつも言っているだろう」  袖で残った涙を拭うが、桐吾は唇を震わせた。 「嘘です……」 「おまえが真実を口にして漸く、本当の意味で共に生きられると思ったのだが」 「嘘です……! 貴方は怒っていらっしゃる……! 私が兄を隠した事を怒っていらっしゃる……!」  やれやれ。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!