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   家族。  (みな)……私の大切な家族だ。  その存在がいつも私を助け、側にいてくれるだけで安堵する。皆に報いる為にも東京でもう一働きせねば。事業に身を窶せば気も紛れよう。 「海の近くに(いえ)を建てようか……」 「は」 「いずれ無位無官でこの地に戻り、私が一人ひっそり隠れ住めるような小さな邸だ。丹羽の山の家屋敷は子供達とおまえに分けよう」 「一体どうされたのです」 「いずれだいずれ。いずれはみな世捨て人の如く欲が失せると言うだろう?」  いずれ人生にも諦めがつく。  世を捨て、迷いを捨て、何の心残りもなく余生をただ穏やかに暮らせる日を、これからの私は日がな待ち侘びるだろう。  失恋とは……まこと心が傷むものだ。  この年で情けない話だが。  だが引き換えにしたものを後悔してはならない。  全て己で選び取った道だ。  後戻りはすまい。
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