62人が本棚に入れています
本棚に追加
「父上!」
「志弦! なんともすっきりしたではないか! いや、だが顔が赤いな。ひょっとして首筋がすうすうして熱でも出ているのでは」
桐吾が手配した床屋は早速仕事をしてくれた。男子らしい短い襟足、整えた髪がとてもよく似合っている。とても。
「熱などございません……! ですが、ですが、西の館に荷物がたくさん運び込まれていて……!」
紅潮した頬。いつもは大人びた志弦が童のように瞳を輝かせている。私はこの顔が見たかったのだ。生き生きと希望を抱き、未来を掴む強さを蓄え……
志弦こそが若い身空で世捨て人の様であったのに、恋とは実に素晴らしい効能がある。
「叔父上が……父上が、もう女子の衣装を脱いでいいと仰ってくださったと」
「ほかには?」
「あの……あの……! 父上が……私の願いを聞き届け、ジェイに……あの方に頼んでくださったと……あの方も……承知してくださったと……あの、私は、私は……!」
胸が─────……堪らなく、痛い。
「ああ! 血圧が上がってしまうのではないか! ここにお座り」
長椅子に並んで腰掛け、ほう、と息を吐く志弦は興奮気味だ。然も在ろう。
私はおまえの為ならどんな事でも出来る。
どんな道化にでもなってみせよう。
最初のコメントを投稿しよう!