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  「父上!」 「志弦! なんともすっきりしたではないか! いや、だが顔が赤いな。ひょっとして首筋がすうすうして熱でも出ているのでは」  桐吾が手配した床屋は早速仕事をしてくれた。男子らしい短い襟足、整えた髪がとてもよく似合っている。とても。 「熱などございません……! ですが、ですが、西の館に荷物がたくさん運び込まれていて……!」  紅潮した頬。いつもは大人びた志弦が(こども)のように瞳を輝かせている。私はこの顔が見たかったのだ。生き生きと希望を抱き、未来を掴む強さを蓄え……  志弦こそが若い身空で世捨て人の様であったのに、恋とは実に素晴らしい効能がある。 「叔父上が……父上が、もう女子の衣装を脱いでいいと仰ってくださったと」 「ほかには?」 「あの……あの……! 父上が……私の願いを聞き届け、ジェイに……あの方に頼んでくださったと……あの方も……承知してくださったと……あの、私は、私は……!」  胸が─────……堪らなく、痛い。 「ああ! 血圧が上がってしまうのではないか! ここにお座り」  長椅子に並んで腰掛け、ほう、と息を吐く志弦は興奮気味だ。然も在ろう。  私はおまえの為ならどんな事でも出来る。  どんな道化にでもなってみせよう。
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