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ジェイはこの先友として、何より心を分け合う存在として志弦の側に在る。新しい生活に必要な物は何でも贈ろうと言うと、志弦は潤んだ瞳で見上げて来る。
「父上は……本当に変わった御方にございます……」
「そうかそうか」
「お家や爵位や世間体や…… そのようなものに執着がなく、いつも自由なお考えで」
爵位など、ここに暮らす皆がそれぞれに生きて行けるようになるまでの傘のようなものだ。事業の運営にこの肩書きは便利に働く事が多い。だがいずれ必ず、身分など関係なく努力した者が報われる時代が来る。平等に学び、職を得て、それぞれがそれぞれに国を潤す誇りを持ち……皆が自ら幸せを勝ち取れる時代が。
「私はその最初の手助けをしたいだけなんだよ」
志弦は真摯な様子で耳を傾け、それから所在なさげにまた幾度も溜息を吐いた。
「父上のお心はまこと大きく……私などはいつまでも父上に守られるばかりで……好いた相手にすら自ら何も言えず……」
「ああ、私の子供達はいいんだ」
「え」
「おまえ達は私の責任の元に生まれて来てくれた。何だってしてやるのが親の義務だし私の生き甲斐だ。せめて今少しは甘やかしたい」
「本当に……父上と言う御方は……!」
笑顔溢れる志弦の頬に刻まれる笑窪。これが私が心から慈しむべきもの。
この子は生まれた時から、小さな体で痛みや苦しみに堪えて来た強い子だ。廃嫡止む無しとなるまで一度も『故郷に帰りたい』とは口にしなかった。
そして今は─────愛する者の為に強く在りたいと願っているに違いない。
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