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  「ひとつ……志弦に言っておく事がある。ジェイムズの事だ」 「はい」 「彼は不遇な少年期を過ごし、体に傷がある。だがそれは彼がエマを守ってきた証だ。私は彼を立派だと思う。どうか、おまえには大きな心で彼を包み込めるようになって欲しい」 「聖痕の事でございますね」  聖痕……基督(キリスト)が負った傷痕の事か。稀に敬虔な信徒の中にも不思議な形で表れると聞くが。 「あの方の写真をお借りした際に、マクレガー様がそのように仰ったのです。天使は傷があるからこそ美しく、また憐れを誘うものなのだと……そして憐れ故に、直向きに逞しく生きようとする姿にまた心打たれるのだと……私はいたく共感し、今も一心に筆を進める事が出来ております」  志弦は聡い子だ。あの離れ邸で隠れ住んでいた兄妹に、どこかしらの不自然さを感じたとしても不思議ではない。そして写真を見れば一目瞭然に解っただろう。男子として成長していない姿に察する事も出来ただろう。なぜそんな事が起きたのかも調べれば容易く解る事。  それでも志弦は彼を慕い、私に請うた。残された時間など関係なく、恋い慕う者と共に生きたいと願う、人として正直な心を守ってやりたい。あの子の涙がどれほど胸に痛くとも。 「ジェイムズだけでなく、エマの事もちゃんと心に留めて。おまえがあの二人を守って行くんだ。私はそのおまえを助ける事を厭わない」 「はい、父上。お約束します」 「志弦は私の誇りだ」 「ありがとうございます……私も、父上を大きな誇りに思っております。誰よりも強くそう思っております」 「そうか……」
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