『おやすみ』まで、あと

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主人であるセトに言われた通り、リザは自室を訪れていた。特に変わった点はない。強いて言えば、物書き用の机の上に置いた中身の入った封筒の位置が、リザ自身が置いた位置と、微妙にずれているような気がした。が、おそらく気のせいだ。この部屋はリザしか使わない。セトは入らないし、屋敷に他に人はいない。泥棒だって、もっと金目のものがあるところを狙うはずだ。 一応部屋の他の場所や周辺も見回ったが、特におかしな点はなかった。やはり、セトの気のせいだろう。そう結論づけ、リザは主人の元へと戻る。 「セト様、お待たせ致しました。特に異常はございません。」 セトの元へと戻り、一礼してそう報告するリザを、セトは酷く優しい瞳で見ていた。 「そっか。僕の勘違いだったんだね。ごめんね、手間をかけてしまって。」 「とんでもない。」 首を振り、改めてセトの方を見たリザは、気付いた。セトは紅茶にも、一緒に用意したお菓子にも、少しも手をつけていない。 「セト様、私を待っていて下さったのですか。」 「あぁ、うん。やっぱり、こういうのは、一緒に食べた方が美味しいだろうと思って。...君の分の紅茶は、僕が淹れておいたよ。」 言われて目を向ければ、リザが飲む予定の紅茶はティーポットではなく、並々とカップに注がれている。 「申し訳ございません、セト様。貴方様にこのようなことをさせてしまいまして。」 「僕が好きでやったことだよ。...それに、ここにはもう君と僕しかいない。気にすることはないさ。」 驚き焦り、慌てて頭を下げるリザの手を、セトはそっと取った。面食らったリザが顔を上げると、いつの間にかすぐ側にいたセトは、真剣な顔で彼女をじっと見つめていた。 「ねぇ、リザ、僕は」 「セト様っ。」 リザはいつもよりも大きい声で彼の名を呼び、その手をさっと振りほどいた。そのまま、彼と適切な距離を取り、そっと頭を下げた。 「ありがとう、ございます。...こう申し上げるのが、よろしいのですよね?」 再び顔を上げ、リザがにこりと微笑むと、少し不貞腐れた様子を滲ませていたセトも、それに合わせて、にこやかに微笑んだ。 「うん。そう言ってもらえた方が、嬉しいよ。」 「はい。...では、ティータイムにしましょうか。」 「そうだね。」 わかりやすく微笑み合いながら、二人はテーブルに着いた。
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