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年若そうなニンゲンを制し、私は言った。
「慌てるのも無理はない。我々もニンゲンを見るのは初めてだ」
「人間、いないの?」
「我々が知らぬ果てのどこかにいるのかもしれんがな。我が名はリュック・レヴェルト。そなたは何という」
「……ヒナタ。アラキ・ヒナタです」
「良き響きであるな」
「日向ぼっこのヒナタだよ。猫が大好きな」
「猫ではない」
苦々しく言うとニンゲンは少し笑った。村人の垂れ下がった尾を見て「しっぽがあるのにね」と興味深そうにする。
「この方は何者でしょうか」
サリアが私に寄り添い、不安げに瞳を揺らした。彼女は領主のひとり娘だ。
「ニンゲンという種族のようだ。察するに害はなさそうだが」
「近くに父が狩りに使う物置小屋がありますので、匿われてはいかがかと」
「お申し出、有難く頂戴仕る。父君が戻られるまで私が見張ろう」
「村の者には私が話を致しますね」
やわらかに微笑んで私の手を取った。そっと見つめ返すと、彼女は小さな叫び声を上げた。
「何を致しますの!」
「きれいな毛並みだなあと思って」
ニンゲンが彼女の毛をなでたらしい。彼女は毛づくろいをしながら「断りなくレディに触れるなんて無礼ですわ」と鼻先を赤くした。
「ごめん、コロンに似てたからつい」
彼は肩を落とした。幼子のような表情に毒気を抜かれ、私たちは嘆息する。
「ヒナタと言ったな。身を隠せる場所に案内しよう」
「食べたりしない?」
「それは私のセリフだ」
また少し笑って大人しくついてきた。その後ろからアルフが「待ってよー」と追いかけてきた。
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