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サリアは森の小屋に我々を案内すると村に駆け戻った。
「この森は領主の許可がなければ入れぬ。しばらくは身を隠していろ」
「しばらくって、僕、早く死にたいんだけど」
私は固まってしまった。ヒナタは四つんばいで小屋に入ると「広いんだね」と辺りを見渡す。
「死にたいとは、如何なることか」
「死ぬつもりで睡眠薬を飲んだもん。死ねなきゃ困るよ」
「毒薬なのか」
「ううん、お母さんが寝る時に飲む薬。大量に使うと眠ったまま死ねるの」
「なぜ死にたいと思うのだ」
「受験に失敗して嫌いな高校に通うことになったから」
「コウコウとはなんだ」
「勉強をするところだよ」
「何を学ぶのだ。魔術か?」
「違うけど、そういうことでいいよ」
彼は深く息を吐いてうずくまった。私は魔術に通じる者を思い浮かべる。
「トコシ婆様に弟子入りをすればよい。それが嫌でも道はいくらでもある」
「ないよ! お母さんに絶対行けって言われてたんだから。それに」
言い淀んだので私は首を傾げた。彼は両足を抱え、膝の間に顔をうずめる。
「あいつらと同じ高校だなんて、死んでもやだ」
死んでも行かぬというのか。それほど魔術への探求心が強いとは、アルフに見習わせたいものだ。
「事情はわからぬが、しばらく隠れていることだな」
「外は危ないの?」
「この村にも気の荒い連中はいる。食事はアルフに運ばせよう」
アルフは露骨に嫌そうな顔をした。
「やだよ。一匹で森に入るなんて」
「私が付きそう」
「だったらリュックが運べばいいのに」
こいつは根本的に騎士に向いていない。しかしアルフの母はサリアの親戚筋にあたる。頭を抱えていると誰かの腹の虫が盛大に鳴った。
「おなかすいちゃった。食べるものある?」
笑ったのはヒナタだった。死にたくても体は正直だな。私は携帯用の干し魚と水を置いていった。
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