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✻Syuji✻
「……どうした……?」
普通では無い様子に聞き返したけれど
澪は顔を上げずに、ただ強くしがみつくように抱きついたまま。
雨に打たれ、ふと目を開け放たれたままの玄関へと向けたけれど
……そういえば、何かがおかしい。
この状況、間違いなく追って来るはずだろう西羽の姿が見えない。
「澪……西羽は中にいるんだよな」
澪はその言葉の後、また強く背中のシャツを掴み
「…………死んじゃった……かも……」
「え……」
「………逃げようって……それで……階段の上から……押して……」
怯えたようにそう続けた。
澪の言葉で
さっき別荘の中から聞こえた大きな音の正体は、西羽が階段から落ちた音だったんだと思った。
────本当に死んだのか……?
どちらにしろ、確認しない訳にはいかない。
脇に落ちた傘を拾い、もうずぶ濡れではあるけれど、澪にさしかけ手に握らせた。
「……澪はここにいろ」
「え……」
「様子見て来るから」
一人で行こうとしたオレの腕を掴む澪。
手に持たせた傘も、また地面に転がった。
「……一緒に行く」
腕を掴む指から、震えてるのが伝わり
一人になりたくないと、その目が言っているよう。
ずっとこの別荘の中に閉じ込められてた澪に何があったのか、正直想像したくないとオレが思う位なのに、澪本人の気持ちは計り知れない。
この腕にある澪の手を強く掴み
雨に濡れながら、別荘の出入口へと向かい
開いたままのドアから中へと入った。
.
別荘の中は静まり返っていて、自分と澪の歩く音だけが響く。
視界の中に人の存在は無い。
「……そこ曲がったとこに階段が……」
澪は小さな声でそう伝えながら、繋いだ手を確かめるように握る。それだけで、どうしようも無い不安が伝わるよう。
少しずつ、その階段が見える所まで近付き、角からのぞき込んだ。
……いた。
階段の下の床の上に横たわっている男。
西羽とは直接会った事は無く、電話で話しただけだったけれど、頭の中で浮かべてたイメージの背格好。
ゆっくりと近付いて行くけれど、身動きひとつしない。
少し手前で足を止め
「澪はここにいろよ」
もし何かあったとしても、澪だけは助かるように、握った手をそっと離した。
そして横たわる男の側に行くと、頭から大量の血が流れているのがすぐに目に入った。
しゃがんで息を確認しようとした時
「……どうしたの……その人……」
その声に振り向けば、澪のすぐ後ろにカスミの姿。
澪も驚いて振り向いてる。
「……お前……なんで…………」
「………気になって戻って来たの」
カスミは澪の横を通り、オレの隣に来ると黙って床に膝をつけて腰を落として、倒れている西羽に触れた。
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