夜明けの街で

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夜明けの街で

雨まで降って来るなんて最悪 夏の終わりが近付いた夜は 急に温度が下がって 夜が明けるのもだんだん遅くなるんだな、なんて そんな事を考えながら 雨を避けて、シャッターの閉まった店の小さな屋根の下にしゃがみ込んだ。 昼も夜も賑やか過ぎる街だけど こんな明け方近くの時間は、人もまばらな希少な静けさで 吹く風もそれだけでひんやり度が上がる気がする。 家を飛び出してもう一年。 小学生の頃から仲の悪かった両親が 私が中学に上がる頃 父親が家を出て行き 母親と私だけの二人の生活が始まり その後は母親が一人で働き、私を育ててくれたけれど ある日、どこで知り合ったのか 母親よりも若い男を家に連れて帰って来たのが全ての始まり。 母親はその男の言いなりに職を夜の街へと変え 母親自身も変わって行く まるでドラマにあるような展開で 私なんて見えてない、そんな感じだから 私自身もだんだんと卑屈になり、変わって行った。 進学は勿論、就職もせずに高校を卒業した後 私は家にいる事を出来るだけ避け、外にばかりいるようになった時 バイト先の店で、リサという七つ年上の女の人に声をかけられて仲良くなった。 こんな高校を卒業したばかりの子供の私に対しても凄くフランクで リサさん、と初めて呼んだ時に“さん”なんか要らないよと それが当たり前のように笑った。 リサはこの繁華街の中でも顔が広く 行く店、行く店に知り合いがいるんじゃないかと思う人物で だけど、何をしてる人なのかとか そんな詮索をする気も元々無く 彼女といると 普通にあのまま過ごしていたら 決して知る事の無かった世界に連れて行って貰えるのが 怖いもの見たさ、そんな気持ちと “特別感”を感じて楽しささえ覚えた。 でもそれは、見せかけだけ 実際はキラキラした物なんかじゃなくて 人の溢れる街の、知られざる闇へと続く道 「澪なら良い客がつくよ。やってみない?」 ある日、リサが言ったその言葉は 私をその闇深くへと誘うものだった。 それでも、家を出たくて出たくて仕方の無かった私には それが闇へ続くものだとしても 差し出された手を掴まずにはいられなかった。 未成年の私は、年齢を偽り リサの所に連絡のあった“客”の待つ場所へ行き その“客”に二時間限定で身体を売る コールガール そう呼ばれる“物”になった。
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