冷たい言葉

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こんな事言ったら、怒りそうだから言わないけど 眠ってる顔は 不思議と幼く見えたりして。 笑ってる時と眠ってる時は、冷たさを全く感じない。 ……なんて、当たり前か 今日は私がベッドを占領しちゃったし 荷物まで取りに行ってくれたてたから きっと寝てないんだろう。 リサと同業者ならば、この人も同じようなサイクルの中で生きてる人 朝方に家に戻り お昼前には眠って 夕方に起き出して 夜の中で動く ゆっくりと側に行き 眠ってる顔を近くで見たら 起こす事を少し躊躇ってしまうけれど ここでずっと眠れる訳でも無いから 指先で肩をつついた。 ……起きない。 仕方なく、もう一度肩をつついた。 すると閉じてた目が少しずつ開いて 視線がスローに私の顔へと向き 「……終わったのか」 ソファの背もたれから背を離して立ち上がる柊二に うん、と頷いた。 受付への方へと、また柊二の少し後ろを歩いて行くと ちょうどさっきの女医さんがやって来て 「澪ちゃん、これね。 吐き気止めも一緒に入ってるから」 差し出された可愛い花柄の袋は 薬だと分かってても、普通の薬局で貰うようなレジ袋と違って ほんの少し、気持ちを明るくしてくれる。 「何かあったらすぐ連絡して。 柊二もちゃんと見てあげてよ? まだ未成年だし、今までここに連れて来た子達とは違うんだからね」 女医さんの言葉に、柊二は髪をかき上げて 「言われなくても分かってる」 ぶっきらぼうな感じでそう返した。 . 車に乗り込み、帰り道。 「ちょっと買い物してくか」 「買い物?」 「うち、冷蔵庫に水と缶ビールと氷しか入ってない」 「……それだけ?」 「それだけ」 まだあの部屋の中を全部見た訳じゃなくて 広すぎるリビングと、私にくれた部屋と、柊二の部屋 それに洗面所とお風呂 きっとキッチンだって、広くて綺麗で 大きな冷蔵庫もあるんだろうと、想像出来る。 スーパーの駐車場には、この車は似つかわしくないような そんな気がしつつも 周りの目なんて全く気にしていない柊二と一緒に店内へ。 「久々に来たわ、スーパー」 柊二はカゴを手に持ち、店の中を見渡した。 私も大きなスーパーに来たのは久し振りで 少しワクワクしたり。 柊二はポンポンと果物をカゴに入れて行く。 「……そんなに食べるの?果物」 「え?いや。あったらお前が食べるかと思って」 果物はもちろん好きだし、食べるけど こんなに沢山腐らせないで食べれるかな でも、自分の為じゃなくて 私が食べるだろうと思ってカゴに入れてくれた物を そんなに食べられない、と言えなくて そのまま先を行く背中の少し後ろを歩く。 すると立ち止まり、数秒後振り返り 「澪、みそ汁とか作れたりする?」 思ってもみなかった事を突然聞かれて 目を見開いた私に、柊二は苦笑い。 「……作れないか」 「作れる!」 思わず、大きな声で言ったら 「マジで?」 嘘だろ?と笑われる予想とは反対に 真っ直ぐに見つめる目に 「……マジで」 そう答えた。
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